弁護士の競合分析は、同じ地域の法律事務所を一覧にするところから始めると、比較の軸がぶれます。労働問題を扱う事務所同士でも、企業側の相談と労働者側の相談では、依頼者が必要とする説明や対応が違うためです。
まず、相談者の立場・依頼内容・手続きの段階をそろえること。そのうえで、対応範囲、費用の発生条件、担当弁護士と連絡の仕組みを調べます。目的は他事務所の優劣を決めることではなく、自事務所の案内や受入体制を改善することです。
この記事では、法律事務所の経営者や集客担当者に向け、競合の選び方から比較表の作成、費用の架空例、改善への使い方までを解説します。
動画でわかるライバルマーケティング
比較する法律事務所は、相談の条件から選ぶ
知名度や検索順位が近いという理由だけでは、同じ依頼をめぐる競合かどうかはわかりません。自事務所が受けたい相談を具体的にし、その相談者が実際に検討しそうな候補を選びます。

同じ分野でも、相談者の立場を分ける
「労働問題」「相続」「企業法務」といった分野名を、もう一段細かくします。たとえば労働問題なら、使用者側の就業規則や紛争対応を依頼する企業と、未払い賃金について相談する労働者では、探すサービスが重なりきりません。
対象を「地域の中小企業が、従業員との紛争について交渉対応を相談する」と書けば、比較すべき業務案内も絞れます。事務所全体の掲載分野が広いかどうかより、その依頼に必要な説明があるかを見ます。
相談・交渉・裁判手続きの範囲を合わせる
初回相談だけの案内と、相手方との交渉を受任する案内を、料金の安さだけで並べないようにします。交渉から調停や訴訟へ進む場合も、どこまでを当初の依頼に含めるのかによって比較条件が変わります。
調査メモには「相談のみ」「交渉」「調停・訴訟などの手続き」といった範囲を記し、不明な段階は未確認とします。手続きの回数や解決期間を、競合サイトの一例から一律に見積もることは避けます。
面談方法と対応地域で候補を広げる
来所しやすさを重視する相談なら近隣の事務所が候補になります。一方、オンライン相談を希望する人には、地域外の事務所も検討対象になりえます。自事務所の商圏を住所だけで固定しないことが大切です。
ただし、オンライン相談の案内があっても、受任からその後の対応まで全て非対面で完結するとは限りません。初回の相談方法、依頼後の面談、出張等の条件を分けて記録します。
ポータルと掲載事務所を二重に数えない
検索結果には、法律事務所の公式サイトだけでなく、弁護士を探すポータルや解説記事も出てきます。集客経路としては参考になりますが、ポータル自体を一つの法律事務所として数えると、地域の競合数を誤ります。
同じ事務所が公式サイトとポータルの両方に掲載されている場合は、事務所を一つにまとめ、情報の出典を別々に残します。最初は自事務所と相談条件が近い数事務所から調べ、異なる選択肢が見つかったときに追加すれば、違いを読み取りやすくなります。
3C分析の競合分析とは?調査6項目・やり方と記入例顧客・競合・自社の関係から、調査すべき項目を整理する。関連記事|DSSお役立ちコラム
公開情報は、登録・業務・担当体制を分けて読む
比較項目を増やす前に、何を根拠に確認できたかを残します。資格の登録情報、事務所が公表する業務内容、実際の受任可否は、それぞれ確認できる範囲が異なります。

弁護士検索と業務情報の役割を区別する
日弁連の弁護士検索は、登録されている弁護士の基本情報を確かめる入口です。一方、取扱業務などから探せる「ひまわりサーチ」は任意登録制で、掲載内容は各弁護士の自己申告に基づきます。
日弁連は、全登録弁護士の基本情報を調べる検索と、任意登録・自己申告に基づく業務情報の検索を区別して案内しています。
出典・要約:日本弁護士連合会「弁護士検索」
検索サービスへの掲載がないことだけで、登録や業務対応がないと判断しないでください。また、登録を確認できたことを、個別案件への適性や対応品質を保証する情報として扱うこともできません。
取扱分野より、依頼できる作業を具体化する
「企業法務に対応」という表示だけでは、契約書の確認、日常の相談、紛争交渉などのどこまでが対象かはわかりません。相談者が知りたい作業に置き換え、公式の業務ページや費用ページを読んで整理します。
| 比較項目 | 記録する内容 | 判断を保留する例 |
|---|---|---|
| 対象となる相談 | 分野、相談者の立場、依頼の段階 | 「幅広く対応」のみで個別業務が不明 |
| 依頼に含む作業 | 相談、書面作成、交渉、手続きの範囲 | 交渉後の手続きまで含むか不明 |
| 費用 | 報酬の計算方法、実費、追加の条件 | 最低額だけで見積もりの前提が不明 |
| 担当・連絡 | 担当弁護士、窓口、報告の案内 | 受付時間しか掲載されていない |
| 確認の根拠 | ページURL、記載内容、確認日 | 第三者の体験談だけで裏付けがない |
公表された情報をそのまま記録する欄と、自事務所に生かす案を書く欄を分けます。「料金の説明が見つからなかった」は調査結果ですが、「料金を隠している」は調査者の推測です。
受付窓口と担当弁護士の対応を分ける
「24時間受付」が示すのは、フォームなどで問い合わせを受け付ける時間かもしれません。受付時間だけでは、担当弁護士の相談や受任の対応時間は判断できません。
窓口の受付、相談の予約、担当弁護士との面談、依頼後の進捗報告を別々に確認します。連絡の頻度や返答の目安が掲載されていなければ、対応が悪いと評価せず、未確認のまま残します。
実績や口コミを、そのまま能力の順位にしない
解決事例は扱った内容を知る材料ですが、全受任案件の結果を示すとは限りません。件数を比較する場合も、集計期間、対象業務、事務所全体か個人かなどの条件が違えば、数の大小だけでは判断できません。
口コミは、説明のわかりやすさや連絡への不安など、確認項目を探す手掛かりとして使います。個別の投稿から事務所全体の品質を決めず、公開された案内で裏付けを探してください。依頼者の事件内容を、競合調査のために聞き出すことも避けます。
競合分析テンプレートを無料配布|比較表の項目・Excel記入例資料の出典・確認日・未確認欄を備えた比較表の作り方を見る。関連記事|DSSお役立ちコラム
弁護士費用は、総額と発生条件をそろえて比べる
着手金の低さだけで費用を比較すると、報酬金や追加の業務を含めた負担が見えません。報酬の決め方と、依頼に含む範囲を先に確認します。

着手金・報酬金と、時間制などの方式を見分ける
着手金は事件等の依頼時に支払う報酬、報酬金は事件の結果に応じて支払う報酬です。名称が似ていても、同じ支払いではありません。日弁連は、弁護士ごとに報酬を定めることと、費用の種類を案内しています。
弁護士報酬は各弁護士が定めます。費用には着手金・報酬金のほか、相談料、手数料、顧問料、実費や日当などがあり、依頼内容に応じて確認が必要です。
出典・要約:日本弁護士連合会「弁護士費用(報酬)とは」
ほかに、対応時間に時間単価を掛けるタイムチャージ方式などもあります。比較表には「着手金と報酬金」「時間単価と想定作業時間」のように方式を明記し、全ての費目がどの依頼にも一律にかかるとは考えないようにします。
架空例で、報酬金を含めた違いを見る
以下は計算方法を理解するための架空例です。どちらも同じ内容の交渉を依頼し、報酬金を「相手方から受け取る金額」に掛けると仮定します。金額は全て税込、実費は含みません。市場の相場や、回収できる金額の予測を示す例ではありません。
A事務所は着手金22万円+受取額の11%、B事務所は着手金11万円+受取額の16.5%という設定です。この条件なら、計算結果は次のように変わります。
| 仮定する受取額 | A:22万円+11% | B:11万円+16.5% |
|---|---|---|
| 100万円 | 33万円 | 27.5万円 |
| 200万円 | 44万円 | 44万円 |
| 400万円 | 66万円 | 77万円 |
着手金だけならBが低くても、この架空の設定では受取額400万円の場合にAの合計が低くなります。費用の大小は、計算の基準と依頼範囲をそろえて初めて比べられます。
実際の報酬では、計算の基礎が受取額なのか、請求額や減額した金額なのかなどを確かめます。この例は報酬方式の違いを示すもので、費用から対応品質や有利な結果を判断するものではありません。
交渉後の手続きと実費の扱いを確認する
同じ案件でも、交渉から別の手続きへ進む際に、追加の着手金や報酬が生じるかどうかは確認が必要です。書面の作成だけを依頼する場合と、継続して代理を依頼する場合も分けます。
日弁連の企業向け案内では、着手金・報酬金の方式と、対応時間に単価を掛ける時間制を紹介しています。報酬の方式を確かめたうえで、業務範囲と費用を確認できます。
出典・要約:日本弁護士連合会 ひまわりほっと「弁護士報酬」
実費の内容や精算方法、出張等の費用、途中で依頼を終了する場合の扱いも比較欄に残します。公開料金だけでは総額を確定できない場合は「個別見積もり」とし、条件が足りない数字を補って順位を付けないようにします。
法律事務所を比較中の方へ、相談条件を伝える
対応分野・料金の条件・相談方法を整えたら、比較検討中の方へ案内するライバルマーケティング広告の仕組みをご確認いただけます。
ライバルマーケティング広告の詳細はこちら分析結果は、自事務所の説明と受入体制に生かす
競合の情報を集め終えたら、自事務所の案内と見比べます。調査で見えた違いのうち、実際の運用で支えられるものから説明を改善します。

強みの言い換えより、相談前の疑問を解消する
「親身」「迅速」と書き足すだけでは、相談者が何を期待してよいかは伝わりません。初回相談の対象、当日準備する資料、費用を説明するタイミングなど、具体的に案内できることを増やします。
| 自事務所の課題 | 見直す案内 | 運用で確認すること |
|---|---|---|
| 対象外の相談が多い | 相談者の立場と取扱業務を明記 | 受付でも同じ条件を説明できるか |
| 無料の範囲を誤解される | 相談時間・対象・有料になる条件 | 予約前と相談時の説明が一致するか |
| 費用の質問が繰り返される | 算定方法と追加業務の条件 | 見積もりに同じ前提が書かれているか |
| 依頼後の連絡が見えにくい | 窓口と進捗報告の方法 | 担当者が継続して実行できるか |
競合が載せていないことを、そのまま自事務所だけの強みとは呼べません。自事務所が提供できる事実を確認し、対象となる相談者に伝わる形に直すことが先です。
比較表の内容を、そのまま広告にしない
内部で違いを整理することと、依頼を促す広告で表現することは分けて検討します。調査時の印象や一部の事例から、「必ず勝てる」「確実に回収できる」といった期待を持たせる説明へ飛躍させないでください。
日弁連は、事実と合わない内容、誤解を招く内容、誇張や過度な期待につながる内容の業務広告が禁止されることを案内しています。
費用や実績の掲載だけでなく、広告制作会社が用意した表現や、リンク先の案内も弁護士側で確かめます。公開前には日弁連の現行規程・指針と所属弁護士会の案内を照合し、自事務所の業務と条件を誤解なく説明できているか確認します。
問い合わせ数と、依頼内容の一致を追う
説明を変えた後は、問い合わせが増えたかに加え、取扱業務に合う相談が来ているかを見ます。同じ相談を電話とフォームで重複して数えず、対象外だった理由も大まかな分類で残すと、案内の不足を探せます。
日弁連の依頼者向け案内は、依頼前に弁護士へ不明点を尋ねることに加え、依頼後の進捗報告が適切に行われているかを確認するよう呼びかけています。
受付時の説明と依頼後の対応までつながっているかを点検し、必要な箇所を修正します。競合調査用の比較表には事件の当事者名や相談の詳細を持ち込まず、担当体制や説明の仕組みとして整理してください。
弁護士の競合分析でよくある質問
比較対象の数や情報の不足で迷ったときは、相談条件をそろえるという出発点に戻ります。判断できない欄を無理に埋める必要はありません。

競合は何事務所を調べればよいですか?
決まった数はありません。相談者の立場・取扱分野・依頼の段階が近い数事務所から始め、比較の軸が異なる候補を見つけたら追加します。事務所数を増やすより、同じ条件で確認できる情報をそろえることを優先します。
大手法律事務所も比較対象に入れますか?
同じ相談者が同じ依頼内容で検討するなら対象に入れます。規模だけで直接の競合と決めず、対象業務、依頼する段階、相談方法、費用の前提を見ます。取扱分野が同じでも、相談者の立場や受任範囲が違えば分けて整理します。
料金や担当体制が公表されていない場合は?
未確認として、確認したURLと日付を残します。非掲載を理由に、高い料金や不十分な体制を推測しないでください。自事務所の改善には、相談者が知りたい条件を明示できているかという問いに置き換えて使えます。
弁護士の競合調査は、どのように進めればよいですか?
まず公式サイト、日弁連の検索案内、公開の業務・費用情報を読み、事実と推測を分けて記録します。調査のために相談者を装って事件の見通しを尋ねたり、非公開の相談内容を集めたりする方法は避けます。公開情報の調査でも、収集方法と公表する表現はそれぞれ確認が必要です。
まずは一つの取扱分野を選び、相談者の立場、依頼する段階、費用の条件を並べてみてください。比較表から自事務所の説明で足りない情報を見つけ、受付と担当の対応をそろえることが、分析を実務へつなげる最初の一歩です。











