競合の価格やサービスを調べるよう頼まれたとき、「どこまで調べてよいのだろう」と迷う場面があります。競合調査が一律に禁止されているわけではありませんが、公開されている情報でも、集め方や利用方法によって注意点が変わります。
確認するのは、何を集めるか、どう入手するか、何に使うかです。公式サイトで料金を確かめることと、競合の社内資料を入手することでは、問題となる点が異なります。見つけた文章や写真を、そのまま自社の資料へ載せてよいかも別の確認が必要です。
この記事では、日本で競合調査を行う担当者に向けて、営業秘密、不正アクセス、著作権、個人情報、競合との情報交換の注意点を整理します。2026年10月21日時点の公的資料などに基づく一般的な説明であり、個別の方法や契約の適否は、具体的な条件を示して法務担当者や弁護士に確認してください。
この記事でわかること
- 競合調査で、情報の入手と利用を分けて確認する理由
- 公開情報・店舗調査・競合との接触で気を付けたい点
- 調査を始める前に、社内や委託先と決めておくルール
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競合調査で問題になるのは何か
まず、調査対象の情報だけで判断しないことが大切です。同じ料金情報でも、店頭で確認する場合と、非公開の価格改定計画を競合から受け取る場合では、確認すべき法律や条件が変わります。

情報の内容・入手方法・使い道を確かめる
本稿でいう競合は、顧客が自社と比較する相手です。調査対象を決める段階で迷う場合は、競合の意味や同業他社との違いから確認してください。
競合の公式サイト、公開された決算資料、店頭の商品などは、調査の出発点になります。ただし、閲覧できることだけを理由に、転載、データの大量取得、営業先名簿への転用まで自由に行えるとは限りません。
「手に入る情報」と「その目的で使える情報」を分けて考えましょう。たとえば、他社の紹介文からサービスの特徴を把握することと、その文章を自社の提案書へコピーすることは、分けて確認します。
| 調査の例 | 確認する条件 | 進め方の目安 |
|---|---|---|
| 公式サイトの料金比較 | 対象プラン・適用条件・確認日 | 条件をそろえ、出典を記録 |
| 他社の文章・画像を資料に掲載 | 利用許諾・引用などの要件 | 閲覧と転載を分けて確認 |
| 元社員から社内資料を受領 | 秘密情報か・提供権限があるか | 利用・展開を止めて法務へ確認 |
| 競合から将来の価格を聞く | 情報交換の内容・競争への影響 | 価格の相談や調整を避ける |
この表は、各行為の合法・違法を一律に判定したものではありません。実際の情報、権限、取得経緯、利用範囲によって判断が変わります。
法律と、規約・契約の制限を分ける
法律上の問題に加え、サービスの利用規約や秘密保持契約の確認も必要です。会員向け資料や商談で受け取った見積書には、利用者や目的、再配布の制限が設けられていることがあります。
規約違反が直ちに犯罪になるわけではありません。一方で、刑事罰の対象ではないからといって、契約上の責任や民事上の問題がなくなるわけでもありません。制限が読み取れない場合は、利用範囲を確認してから調査へ組み込みます。
競合他社の見つけ方と、調査対象の絞り方を見る顧客が何と比べているかを調べる5つの方法を紹介しています。関連記事|マーケティングノート
営業秘密と不正アクセス
公開情報では分からない原価や顧客情報を知りたくなっても、他社の内部情報へ調査範囲を広げる前に立ち止まる必要があります。情報を提供した人の立場だけで、利用してよいとは判断できません。

営業秘密には三つの要件がある
不正競争防止法上の営業秘密は、秘密として管理され、事業活動に役立ち、公然と知られていない技術上・営業上の情報です。一般に、それぞれを秘密管理性、有用性、非公知性と呼びます。
顧客名簿、製造方法、販売計画などが該当することがありますが、名称だけで決まるものではありません。どのように管理され、どの範囲の人に知られていたかなど、実際の事情に照らして判断されます。
出典の要点:営業秘密の保護には、秘密管理性・有用性・非公知性の三つの要件があります。
元社員や取引先からの資料も、そのまま使わない
「以前勤めていた会社の資料だから渡せる」「取引先から回ってきた」と言われても、提供や利用の権限があるとは限りません。不正な持ち出しや開示を知りながら取得・使用する場合のほか、重大な過失で知らなかった場合なども、不正競争防止法上の問題になり得ます。
非公開資料や漏えいが疑われる情報は、受け取りや社内への展開を進めず、法務へ相談します。すでに受領していた場合も、自分だけで利用可否を決めず、入手経緯を含めて対応を確認してください。
出典の要点:営業秘密の不正取得だけでなく、不正な取得・開示が介在したことを知る場合などの取得、使用、開示も規定されています。
他人の認証情報や、制限を回避する方法を使わない
競合の管理画面や会員ページを調べるために、許可なく他人のID・パスワードを使うことや、アクセス制御による制限を回避することは、不正アクセス禁止法上の問題になり得ます。「パスワードを知っている」「技術的に開ける」という事情だけで、利用する権限は得られません。
調査では、自社が正当に利用できるアカウントや、提供者が許可する取得方法を使います。アクセスできない情報が必要になったら、回避方法を探すのではなく、公開情報で代替するか、正式に利用許可を確認します。
出典の要点:他人の識別符号の入力などにより、アクセス制御で制限された利用を可能にする行為が規定されています。具体的な適用は権限や制御の状況などによります。
公開情報の収集・転載にも条件がある
営業秘密に当たらない公開情報にも、著作権や個人情報の扱いといった別の論点があります。調べて理解する段階と、保存・共有・公表する段階を分けると、確認すべき点が見えやすくなります。

文章・写真・画面を、出典だけで転載しない
他社の記事、写真、図表や画面の表現には、著作権が生じている場合があります。スクリーンショットを撮り、出典URLを添えれば、どのような資料にも自由に載せられるというわけではありません。
引用として使うなら、公表された著作物であること、公正な慣行に合うこと、説明や批評などの目的に照らして正当な範囲であることなどを確認します。引用部分と自分の説明を区別し、利用の目的・分量・方法なども確認します。出所の明示も必要です。引用の要件を満たさなければ、利用許諾を得るなどの対応を検討します。
出典の要点:引用には著作権法第32条の要件があり、出所の明示も必要です。資料に利用する目的や、利用する分量・方法を確認します。
「社内会議だけで使うから大丈夫」とも言い切れません。会社の業務での利用は、個人や家庭などで使う「私的使用」のための複製とは区別されます。情報解析などに関する別の権利制限が適用される場合もあるため、利用許諾や法令上の例外を含め、実際の使い方ごとに確認してください。
出典の要点:会社内での業務上の使用は、著作権法上の「私的使用」に含まれないと解されています。
公開された氏名・連絡先も、利用目的を確認する
企業サイトの担当者名や、SNSで本人が公開した情報でも、個人情報に該当するものがあります。単に画面で見ることと、氏名・連絡先を収集して自社の名簿へ登録することは分けて考えます。
個人情報保護委員会のガイドラインは、インターネットなどから個人情報を取得した場合を、利用目的の通知または公表が必要な例として挙げています。あらかじめ利用目的を公表している場合や、法令上の例外もあるため、取得方法と用途に応じた確認が必要です。
競合の商品を比べる目的なら、担当者個人の連絡先まで必要でしょうか。目的に必要な情報へ絞り、保存・共有する範囲も決めます。収集した情報を営業活動や第三者への提供に使う場合は、その用途についても別途確認します。
出典の要点:本人が公開した個人情報の取得にも、利用目的の通知・公表の規定が関係します。単なる閲覧は、同項の事例から除かれています。
自動収集は、規約と提供方法を先に調べる
価格や掲載件数をプログラムで集める場合も、公開ページだから無条件に取得してよいとは判断しません。取得対象に個人情報や著作物が含まれるかに加え、サイトの規約、APIの利用条件、取得・再利用の許可範囲を確認します。
これは、自動収集を一律に違法と扱う意味ではありません。実務では、提供者が用意するAPIやダウンロード機能から検討し、許可された範囲・頻度で利用します。拒否や制限が示されたときに、別アカウントなどで回避する運用は採用しないようにします。
店舗調査・情報交換・広告利用の注意点
店頭の観察や業界の会合にも、調査の手掛かりはあります。ただし、相手の施設を利用することと、競合と事業上の方針を話し合うことでは、注意する理由が異なります。

店舗では、見える範囲と施設のルールを守る
スーパーの価格調査なら、商品名、容量、税込・税抜、特売条件、確認日時をそろえて記録すると、比較の精度を上げられます。一方、撮影や記録を禁じる店内ルールがある場合は、その条件や許可の必要性を確認します。
立入禁止の場所へ入る、業務を妨げる、従業員から内部資料を得ようとするといった行為は、通常の観察とは分けて考える必要があります。身元や購入目的を偽って面談・見積りを繰り返す方法も標準手順にせず、問い合わせ条件や相手への負担を含めて事前に確認しましょう。
店のルールを確認しても判断がつかない調査は、実行前に方法を具体化して相談します。
競合店調査で記録する8項目と、無料Excelを見る店舗ごとの条件をそろえ、観察した事実を比較表へまとめる手順を紹介しています。関連記事|マーケティングノート
価格を独自に調べることと、競合と調整することは違う
競合と会うこと自体が、直ちに独占禁止法違反になるわけではありません。ただし、将来の販売価格や値上げ時期、販売数量、顧客や地域の割り振りなどを相談・調整することは、重大な問題になり得ます。
公正取引委員会は、価格転嫁についても各社が自主的に判断すべきとし、競合と価格や時期を取り決める行為に注意を促しています。業界団体の情報活動に関する指針でも、現在・将来の個別の価格や数量などの情報交換が、競争へ与える影響を問題にしています。
公開された価格を自社で比較することと、競合と今後の価格をそろえることを混同しないでください。会合では議題を事前に確認し、未公表の価格方針などの話題が出たら、交換を続けず法務へ相談します。
出典の要点:競争事業者間で価格などを取り決め、競争を制限する行為はカルテルの問題になります。情報交換も、その内容や競争への影響に応じた検討が必要です。
出典元:公正取引委員会「物価高の局面におけるカルテルに対する取組」/事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針「9 情報活動」
比較結果を広告に使うなら、表示も確認する
調査結果を「他社より安い」「業界で最も優れている」などの広告へ使う段階では、比較の根拠や見せ方も確認します。消費者庁は、比較広告そのものを禁止しているわけではなく、客観的な実証、事実の正確で適正な引用、公正な比較などを求めています。
たとえば、自社だけ割引後の価格にする、他社の有料オプションと自社の基本料金を比べる、古い調査を現在の結果のように見せる、といった比較では誤解を招きます。比較する条件と調査時点を明確にし、広告として出す前に表現を確認してください。
出典の要点:比較広告では、実証された内容を正確に用い、比較方法も公正であることなどが重要です。
出典元:消費者庁「比較広告」
調査前に決める社内ルール
担当者の判断だけに任せると、途中から収集範囲が広がったり、社内資料がそのまま広告へ転用されたりしがちです。着手前に調査の目的と利用範囲を決め、迷う情報の相談先を共有しておきます。

何を調べ、何には踏み込まないかを共有する
最初に、「料金ページを改善するため、公開されたプランの価格と条件を比較する」のように目的を具体化します。必要な情報が定まると、顧客名簿や未公表の価格計画など、今回の調査では求めない情報も明確になります。
| 決める項目 | 記入例 | 確認のポイント |
|---|---|---|
| 目的・対象 | 自社の料金ページ改善/3社の公開料金・プラン条件 | 何の判断に使うか |
| 取得方法 | 公式ページの閲覧・公開資料 | 権限・利用条件を確認 |
| 保存・利用範囲 | 社内比較表/広告転用時は再確認 | 転載や個人情報を確認 |
| 相談先 | 調査責任者・法務担当 | 迷う情報は利用前に相談 |
上の表は架空の記入例です。会社ごとの契約、取扱情報、社内規程に合わせて調整してください。
出典と条件を残し、推測と事実を分ける
比較表には、出典URL、確認日、対象プラン、地域や割引などの条件を残します。「サイトに掲載されていた内容」と「そこから担当者が考えた仮説」を別欄にすると、後から根拠を見直せます。
調査中に想定外の非公開資料や個人情報が現れたら、収集範囲を広げる前に確認します。必要な情報を、説明できる方法で集め、決めた用途で使うことを社内の基準にすると、担当者も相談すべき場面を判断しやすくなります。
競合調査レポートの構成とパワポ記入例を見る調査記録から比較結果、提案までつなぐ報告書のまとめ方を紹介しています。関連記事|マーケティングノート
競合調査の法律でよくある質問
最後に、外部へ調査を頼む場合と、「競合」「競業」の言葉が混同されやすい場面を確認します。

調査会社へ依頼すれば、方法の確認は不要ですか?
委託しただけで、すべての問題がなくなるわけではありません。依頼する情報、取得方法、資料の出所、利用許諾、個人情報の扱い、成果物の利用範囲を契約前に確認します。非公開情報や出所の不明な資料が成果物に含まれていたら、そのまま使用せず、委託先と法務担当者へ確認してください。
競合調査と、退職後の競業避止義務は同じ話ですか?
確認する対象が異なります。競合調査は他社の情報を集めて分析する活動ですが、競業避止義務は、在職中や退職後に競合する事業を行ったり、競合企業で働いたりすることを禁止・制限する義務を指します。転職や独立の可否は、契約の内容や具体的な事情によるため、この記事の調査方法の説明だけでは判断できません。
まず調査目的を絞り、公開情報から何が分かるかを整理しましょう。情報が足りないときほど、取得方法を広げる前に、必要性と利用条件を確かめることが大切です。











