「生徒は集まっているのに手元に残らない」「自分が授業に入り続けていて、経営の時間が取れない」——1校舎の塾では、この二つが同時に起こります。
1校舎の塾は、経営者が指導も運営も担っていることが多くあります。この状態では、忙しさと利益が比例しません。まず数字を見える形にして、どこに手を打つかを決める必要があります。
1校舎の塾経営は、損益分岐となる在籍数を出し、時間帯ごとの稼働率を見ることから立て直します。
在籍数を増やす前に、いまの在籍で利益が出る構造になっているかを確認します。時間割の組み方だけで、同じ在籍数でも残る額は変わります。
- 損益分岐となる在籍数の計算手順
- 時間割の組み方が利益を決める構造
- 講師の採用と育成を1校舎規模で回す方法
- 値上げを判断するときの手順と説明の仕方
- 経営者が現場から抜けられない状態の解消
サービス動画
まずは動画で全体像を確認できます
競合を調べているユーザーに、どう自社を選択肢として届けるのか
ライバルマーケティング広告の仕組みや、競合比較中のユーザーに接点を作る考え方を、サービス紹介動画でも確認できます。記事を読む前の全体把握にも、読み終えたあとの社内共有にも使いやすい内容です。
社内共有や後で見返す場合は、YouTubeで動画を開くこともできます。
【結論】損益分岐の在籍数を出してから動く
いま何人在籍すれば固定費を賄えるのかを知らないまま経営していると、打つ手の優先順位が決まりません。まずこの数字を出します。
固定費を先に洗い出す
家賃、光熱費、システムの利用料、自分の生活に必要な役員報酬を合計します。ここに講師の人件費を含めるかは、その講師が固定給かコマ給かで変わります。固定給なら固定費、コマ給なら在籍数に連動する変動費として扱います。
1人あたりの月次利益を出す
月謝の平均から、教材費とコマ給の講師人件費を引きます。この額で固定費を割ると、必要な在籍数が出ます。感覚で「まだ足りない」と判断するより、残り何人かが分かるほうが打ち手を決めやすくなります。
季節講習を含めずに計算する
季節講習の売上を含めて計算すると、講習のない月に資金が足りなくなります。通年の月謝だけで固定費を賄える在籍数を出し、講習の売上は上乗せとして扱います。この分け方をしないと、年間では黒字でも月次で資金が回りません。
| 計算の段階 | 使う数字 | 注意点 |
|---|---|---|
| 固定費 | 家賃・光熱費・システム・役員報酬 | 固定給の講師費も含める |
| 1人あたりの月次利益 | 月謝−教材費−コマ給の人件費 | 平均月謝で計算する |
| 必要な在籍数 | 固定費÷1人あたりの利益 | 講習の売上は含めない |
| 現在との差 | 必要な在籍数−現在の在籍数 | 残り何人かで打ち手を決める |
時間割の組み方が利益を決める
在籍数が同じでも、時間割の組み方によって必要な講師のコマ数は変わります。ここが1校舎の塾で最も効く改善点です。
時間帯ごとの稼働率を出す
曜日と時間帯ごとに、何人が入っているかを一覧にします。多くの塾では、平日の夕方以降に集中し、それ以外が空いています。空いている枠が見えると、そこに通える生徒を対象に募集できます。
空き枠に誘導すると講師費が増えない
混雑時間帯の生徒を増やすには講師の増員が必要ですが、空いている時間帯なら既存の講師で受けられます。同じ1人の入塾でも、どの枠に入るかで利益への効果が変わります。体験の日程調整の段階で、空き枠を優先して案内します。
講師1人が同時に見る人数を決める
個別指導では、講師1人が同時に何人を見るかで採算が変わります。人数を増やすと利益率は上がりますが、個別に見る時間が減って退塾につながります。上限を決め、それを超えないように時間割を組みます。
自習席の稼働も見る
自習席は直接の売上を生みませんが、通塾の頻度と満足度を上げます。授業のない時間帯に自習で来る生徒がいれば、その時間帯に授業枠を作ると席が足りなくなります。自習の利用状況も一覧に含めます。
| 時間帯の状態 | 在籍を増やすと | 取れる打ち手 |
|---|---|---|
| 混雑している | 講師の増員が必要 | 空き枠への誘導 |
| 空いている | 追加の講師費が不要 | その枠に通える層へ募集 |
| 自習で埋まっている | 授業枠が作れない | 席数と時間帯の調整 |
| 完全に空いている | ― | 大人向けや低学年の枠を検討 |
講師の採用と育成を1校舎規模で回す
1校舎の塾では、講師が抜けたときの影響が直接出ます。採用を続ける前提で、育成の型を作ります。
募集は常時出しておく
必要になってから募集を始めると、採用と研修の期間が間に合いません。学生講師は学年の切り替わりで抜けるため、その時期を見込んで前もって募集します。常時出しておけば、良い応募があったときに採れます。
研修の型を文書にする
経営者が口頭で教える形だと、講師が増えるたびに同じ説明を繰り返すことになります。体験授業の進め方、初回面談で聞く項目、保護者への報告の書き方を文書にします。文書があれば、経営者が指導に入らなくても新しい講師を立ち上げられます。
進度の記録を共通の形式にする
教え方を統一する必要はありませんが、進度の記録は共通化します。記録があれば、担当が変わっても継続でき、経営者が状況を把握できます。記録が講師の頭の中にある状態は、その講師が抜けた瞬間に失われます。
辞める前提でシフトを組む
1人の講師に特定の曜日を完全に依存させると、その講師が抜けたときにその曜日が回らなくなります。曜日ごとに複数の講師が対応できる状態を作ります。人数が限られる場合も、経営者が代替できる範囲を把握しておきます。
| 備え | 内容 | 怠った場合 |
|---|---|---|
| 常時の募集 | 必要になる前から出す | 抜けたときに間に合わない |
| 研修の型 | 文書化した手順 | 経営者の時間が取られる |
| 進度記録の共通化 | 共通の書式で残す | 担当交代で内容が途切れる |
| 曜日の重複対応 | 複数の講師が対応できる | その曜日が回らなくなる |
退塾率が改善の優先順位を決める
入塾が同じでも、退塾が多ければ在籍は増えません。集客に費用をかける前に、退塾の状況を確認します。
退塾を1人減らすほうが費用がかからない
新規1人を獲得するには、告知の費用と体験対応の工数が発生します。退塾を防ぐのは既存の対応の中で行えます。同じ在籍1人分を維持するなら、退塾防止のほうが費用は小さくなります。
退塾理由を分類して記録する
「家庭の事情」という説明の裏には、費用の負担、講師との相性、通塾の負担といった実際の理由があります。個別には分からなくても、まとめると偏りが見えます。偏りがある項目が、実際の原因です。
退塾の手続きを整えておく
学習塾の契約は特定継続的役務提供の対象となる場合があり、中途解約の扱いに定めがあります。手続きを渋る対応は、その後の口伝えで最も長く残ります。手続きと適用時期を明文化し、誰が対応しても同じになる形にします。
在籍の増減を月次で追う
入塾数だけを見ていると、退塾で相殺されている状態に気づけません。月ごとに、入塾数、退塾数、期末在籍数を並べます。この三つを並べると、集客と継続のどちらに問題があるかが分かります。
| 比較項目 | 新規1人の獲得 | 退塾1人の防止 |
|---|---|---|
| 直接費用 | 告知・広告費が発生 | 既存の対応内で行える |
| 工数 | 体験対応と入塾手続き | 面談と選択肢の提示 |
| 残る期間 | 最初の3か月を未通過 | 既に通過している |
| 実行できる時期 | 検討時期に集中 | 時期を問わない |
季節講習の設計が年間の利益を左右する
季節講習は単価が高い一方で、講師の確保と時間割の負荷が集中します。設計を誤ると、忙しいだけで残りません。
受講コマ数の上限を決める
生徒ごとに受講コマ数を積み上げると、売上は増えますが講師のコマも増えます。講師が確保できる範囲を先に把握し、そこから受け入れられる総コマ数を決めます。受け入れてから講師が足りなくなると、質が落ちます。
提案するコマ数の基準を作る
生徒ごとに必要なコマ数を担当者の判断に任せると、人によって提案量が変わります。学年と科目と現状から、標準的なコマ数の基準を作ります。基準があれば、保護者への説明も一貫します。
費用の説明は入塾時に済ませておく
季節講習が別料金であることを入塾時に伝えていないと、案内した時点で不信を招きます。年間費用の見通しに講習を含めて示しておけば、この時期の退塾が減ります。金額に幅がある場合は、幅と変動要因を伝えます。
講習から通年へつなぐ設計を持つ
外部から講習だけ受けた生徒を通年へつなげる仕組みがないと、毎回新しい家庭を集め続けることになります。最終回に現状と次の課題を書いた所見を渡す形にすると、継続の判断材料になります。
| 設計項目 | 決めること | 決めない場合 |
|---|---|---|
| 総コマ数の上限 | 講師の確保状況から逆算 | 質が落ちて退塾につながる |
| 提案コマ数の基準 | 学年・科目・現状から | 担当者ごとに提案量が変わる |
| 費用の説明時期 | 入塾時に年間費用へ含める | 案内時に不信を招く |
| 通年への導線 | 所見を渡して継続を判断させる | 毎回新規を集め続ける |
値上げを判断するときの手順
値上げは退塾を招く一方、放置すると利益が出ない構造が固定されます。判断の手順を決めておきます。
原価の変化を数字で確認する
講師の時給、教材費、光熱費、システムの利用料が上がっているかを確認します。上がっていれば、月謝が同じままでは1人あたりの利益が減っています。感覚ではなく数字で確認し、どれだけ上げる必要があるかを出します。
時期は学年の切り替わりに合わせる
学年が上がる時期は、コースや学年別の料金が変わる時期でもあります。この時期に合わせると、値上げが変更の一部として受け取られます。学期の途中に上げると、変更だけが目立ちます。
在籍家庭には先に説明する
新規の料金だけを上げて在籍家庭を据え置く方法もありますが、いずれ知られます。在籍家庭に対しては、いつから、いくら、なぜ上げるのかを事前に文書で伝えます。理由を説明せずに金額だけ通知すると、退塾につながります。あわせて、募集ページや資料の料金表示も同時に更新し、総額が分かる形に保ちます。
値上げと同時に何かを増やす
金額だけが上がる形だと、保護者から見て負担が増えただけになります。自習席の利用時間を延ばす、面談の回数を増やす、報告の頻度を上げるなど、同時に増やす要素を用意します。原価がかからない改善から選びます。
| 手順 | やること | 怠った場合 |
|---|---|---|
| 1 | 原価の変化を数字で確認 | 必要な幅が分からない |
| 2 | 時期を学年の切り替わりに合わせる | 変更だけが目立つ |
| 3 | 在籍家庭へ事前に文書で説明 | 退塾につながる |
| 4 | 同時に増やす要素を用意 | 負担が増えただけになる |
| 5 | 表示を総額が分かる形に修正 | 誤認を招く表示になる |
経営者が現場から抜けられない状態の解消
経営者が授業に入り続けている状態では、経営の判断に使う時間が残りません。手放す順番を決めます。
最初に手放すのは事務作業
月謝の管理、教材の発注、問い合わせの一次対応は、手順を決めれば他の人に任せられます。指導や面談より先に、この部分から手放します。手順を文書にすることが、任せる前提になります。
次に手放すのは授業
授業を手放すには、講師の確保と研修の型が必要です。ここが整っていないと手放せません。経営者が授業に入り続ける理由は、多くの場合「任せられる講師がいない」ではなく「研修の型がない」ことです。
最後まで残すのは面談と判断
保護者面談と、経営上の判断は経営者が担う部分です。ここに時間を使えるようにするのが目的なので、この二つは手放しません。ただし面談で使う資料と聞く項目は、書式にしておきます。
手放す前に記録の形式を作る
進度、出席、面談の内容が記録されていない状態で任せると、状況が見えなくなります。記録の書式を先に作り、それを埋める形で任せます。記録があれば、経営者は現場に入らずに状況を把握できます。
| 業務 | 手放す順番 | 前提になるもの |
|---|---|---|
| 事務作業 | 最初 | 手順の文書化 |
| 問い合わせの一次対応 | 早い段階 | 対応の手順と記録の書式 |
| 授業 | 研修の型ができてから | 講師の確保と研修文書 |
| 保護者面談 | 手放さない | 面談の書式 |
| 経営の判断 | 手放さない | 数字の記録 |
月次で見る数字を四つに絞る
見る数字を増やすと、判断に使わない集計作業が増えます。1校舎の規模では四つに絞ります。
在籍数と損益分岐までの差
月末の在籍数と、損益分岐の在籍数までの差を見ます。差が縮まっているなら方向は合っています。差が変わらない場合、入塾と退塾が相殺している可能性があります。
時間帯ごとの稼働率
空いている枠が残っているなら、追加の講師費なしで在籍を増やせます。この数字を持っていると、体験の日程調整で空き枠を優先して案内できます。
退塾率と理由の内訳
退塾数と、その理由の分類を見ます。特定の理由に偏りがあれば、そこが実際の原因です。理由を記録していないと、この判断ができません。
1人あたりの月次利益
在籍数が増えても、この数字が下がっていれば利益は増えていません。講師のコマ数が増えすぎているか、値引きが増えている可能性があります。在籍数とセットで見ます。
| 数字 | 見る内容 | 悪化したときに疑う場所 |
|---|---|---|
| 在籍数 | 損益分岐までの差 | 入塾と退塾の相殺 |
| 時間帯稼働率 | 空いている枠 | 募集の対象条件 |
| 退塾率 | 理由の内訳 | 指導・費用・通塾の負担 |
| 1人あたり利益 | 在籍増と利益の関係 | コマ数の増加・値引き |
空き枠に通える層を含めて対象を指定する
1校舎の塾は商圏が限られるため、その中で比較している家庭を確実に拾うことが重要になります。
商圏内の需要は限られている
対象となる学校の生徒数には上限があります。この中で、いま塾を検討している家庭がどれだけいるかが、獲得できる数の上限になります。認知を広く取るより、検討中の家庭を確実に拾うほうが効率的です。
競合塾の閲覧者を対象に指定する
ライバルマーケティング広告は、競合となる塾のサイトを閲覧している人を対象に指定して広告を配信する手法です。商圏内で他塾を調べている家庭に、自塾の体験を提示できます。地域全体へ配る方法と違い、探している最中の家庭だけに絞れます。
空き枠に通える条件を訴求に入れる
時間帯ごとの稼働率が分かっていれば、空いている枠に通える条件を訴求に入れられます。「平日の早い時間に通える生徒を受け入れています」といった記述は、追加の講師費なしで在籍を増やす手段になります。
| 対象 | 状態 | 訴求に入れる条件 |
|---|---|---|
| 他塾を比較検討中 | 候補を集めている | 時間帯・年間費用・振替 |
| 現在の塾に不満 | 乗り換え先を探している | 何が違うかを一点 |
| 空き枠に通える層 | 時間の都合が合う | その時間帯の受け入れ |
| まだ検討していない | 必要性を感じていない | 優先度は低い |
塾の経営についてよくある質問
在籍数の目標はどう決めればよいですか?
固定費を1人あたりの月次利益で割って、損益分岐となる在籍数を出してください。この数字を知らないまま目標を立てると、達成しても利益が出ない状態になり得ます。あわせて、季節講習の売上を含めずに通年の月謝だけで計算してください。講習を含めて計算すると、講習のない月に資金が足りなくなります。目標は、この損益分岐からの残り人数で管理してください。
生徒は増えたのに手元に残りません
1人あたりの月次利益と、時間帯ごとの稼働率を確認してください。個別指導では生徒が増えれば講師のコマも増えるため、混雑時間帯に入塾が集中すると講師費が利益を上回ることがあります。空いている時間帯なら既存の講師で受けられるため、同じ1人でも利益への効果が変わります。体験の日程調整の段階で、空き枠を優先して案内してください。
月謝を値上げしたいが退塾が心配です
手順を守れば影響は抑えられます。まず原価の変化を数字で確認し、必要な幅を出してください。時期は学年の切り替わりに合わせると、変更の一部として受け取られます。在籍家庭には、いつから・いくら・なぜ上げるのかを事前に文書で伝えてください。あわせて、自習席の利用時間を延ばすなど、原価がかからない改善を同時に用意してください。金額だけが上がる形だと、負担が増えただけになります。
講師が確保できません。どうすればよいですか?
募集を常時出しておくことと、研修の型を文書にすることの二つを整えてください。必要になってから募集を始めると、採用と研修の期間が間に合いません。学生講師は学年の切り替わりで抜けるため、その時期を見込んで前もって募集します。研修が口頭のままだと、講師が増えるたびに経営者の時間が取られ、結果的に確保できる人数の上限が下がります。
自分が授業から抜けられません
手放す順番を決めてください。最初は事務作業です。月謝の管理、教材の発注、問い合わせの一次対応は、手順を決めれば任せられます。授業を手放すには講師の確保と研修の型が必要なので、その次になります。授業に入り続ける理由は、多くの場合「任せられる講師がいない」ではなく「研修の型がない」ことです。保護者面談と経営判断は手放さず、そこに時間を使える状態を目指してください。















