「他業種のマーケティングの手法を持ち込んでも成果が出ない」「何を指標にすればよいのか分からない」——教育分野では、この二つが起こります。
教育分野には、他業種にない四つの制約があります。この制約を前提にしないまま一般的な手法を当てはめると、成果が出ないだけでなく、法令上の問題や解約の増加につながります。
教育マーケティングは、決定者と受益者が違う・成果が見えにくい・継続が前提・法令の制約があるという四つの前提から設計します。
この四つのうちどれを見落としても、施策は空回りします。他業種で有効な手法をそのまま持ち込む前に、四つの前提に照らして使えるかを確認する順番になります。
- 決定者と受益者が違う構造がもたらす設計上の違い
- 成果が見えにくい商品で何を指標にするか
- 継続が前提の収益構造と獲得費用の関係
- 教育分野に特有の法令上の制約
- セグメント別に見るべき指標の違い
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【結論】四つの制約から設計を始める
教育分野のマーケティングが他業種と違うのは、この四つの制約があるからです。前提を確認しないまま手法を選ぶと空回りします。
決定者と受益者が違う
子ども向けの教育では、費用を払って決めるのは保護者で、サービスを受けるのは子どもです。訴求は保護者に向け、満足度は子どもが左右するという分離が起きます。この分離を意識しないと、片方だけに向けた設計になります。
成果が見えにくい
提供するものが目に見える形で残りません。点数や級位がある分野は判断しやすいものの、そうでない分野では通っている人自身も変化を測れません。指標を提供側が作って渡す必要があります。
継続が前提の収益構造
1回の売上ではなく、継続する期間の合計が収益になります。獲得費用は、この継続期間から得られる金額と比べて初めて評価できます。獲得数だけを追うと、短期で離脱する層を集める結果になります。
法令上の制約がある
成果に関する表現、料金の表示、契約の書面と解約の扱いに法令上の要件があります。学習塾や語学教室のように、特定商取引法上の特定継続的役務提供にあたる分野もあります。表現の自由度が他業種より狭くなります。
| 制約 | 他業種との違い | 設計への影響 |
|---|---|---|
| 決定者と受益者の分離 | 購入者と利用者が同じことが多い | 訴求と満足度の設計を分ける |
| 成果の見えにくさ | 商品が目に見える | 指標を作って渡す必要がある |
| 継続が前提 | 単発の売上もある | 獲得費用を継続期間で評価する |
| 法令上の制約 | 表現の自由度が高い分野もある | 表示と契約の要件を先に確認する |
決定者と受益者が違う構造への対応
保護者が決めて子どもが受ける構造では、片方だけに向けた設計は成立しません。両方を分けて考えます。
入会までは保護者、継続は受益者が左右する
入会の判断は保護者が行うため、訴求は保護者に向けます。一方、通い続けるかどうかは子ども本人の反応で決まります。訴求だけを磨くと入会は増えても継続しません。両方を別の工程として設計します。
保護者へは「負担」と「見通し」を示す
送迎、費用、時間帯といった負担と、どのくらいで何ができるようになるかの見通しです。子どもが楽しんでいることだけを伝えても、家庭で回るかの判断はできません。
受益者へは「できた」を積む
子どもが続ける理由は、できたという実感です。毎回の中で一つできる状態を作ると、通う意欲が維持されます。この実感を保護者へ報告すると、両方に効きます。
大人向けは決定者と受益者が同じ
資格スクールや大人向けの教室では、決定者と受益者が同じになります。この場合、判断の軸は自分が続けられるかに集約されます。子ども向けと同じ設計を持ち込むと合いません。
| セグメント | 決定者 | 受益者 | 設計の重点 |
|---|---|---|---|
| 子ども向けの塾・教室 | 保護者 | 子ども | 訴求と継続を分けて設計 |
| 中高生向け | 保護者と本人 | 本人 | 両方に判断材料を渡す |
| 大人向けのスクール | 本人 | 本人 | 続けられるかに集約 |
| 学校・大学 | 受験生と保護者 | 学生 | 両者に別の材料を用意 |
成果が見えにくい商品で何を指標にするか
結果の指標が動くまでには時間がかかるため、その間に見せる過程の指標が必要になります。
結果の指標は動くのが遅い
点数、合格、資格の取得といった結果は、数か月から数年かかります。この間に何も示せないと、通っている側は続ける理由を自分で作れません。結果の指標だけに頼ると、この期間に離脱が起きます。
過程の指標を決めて記録する
提出率、質問の回数、できるようになった具体的な項目、参加の状況といった過程の指標です。過程の指標は結果より早く動くため、変化を示す材料になります。何を記録するかを分野ごとに決めます。
受け手が確認できる形にする
提供側の記録だけでは、受け手は実感を持てません。家庭で試せる形、本人が自分で確認できる形にすると、記録が納得につながります。この確認が継続の理由になります。
成果の表現は裏付けとセットにする
結果の指標を訴求に使う場合、母数と対象期間を併記します。条件を書かずに高い数字だけを示すと、実際より優良と示す表示になり得ます。
| 指標の種類 | 動く速さ | 使う場面 |
|---|---|---|
| 結果(点数・合格・資格) | 遅い | 訴求と実績の提示 |
| 過程(提出率・質問回数) | 速い | 継続の理由づくり |
| できるようになったこと | 速い | 受け手への報告 |
| 参加の状況 | 即時 | 離脱の兆候の把握 |
継続が前提の収益構造から獲得費用を決める
獲得費用の妥当性は、継続期間から得られる金額と比べて初めて判断できます。獲得数だけを追うと採算が崩れます。
1人から得られる金額を出す
月額から変動費を引いた額に、平均の継続期間を掛けます。これが1人から得られる金額です。この金額の何割までを獲得費用に使えるかを決めれば、施策ごとの妥当性を判断できます。
継続期間を把握していないと判断できない
多くの事業者がこの数字を持っていません。過去に離脱した人の在籍期間を集計すれば出せます。セグメント別、学年別に分けると精度が上がります。
獲得数の目標だけを置くと質が下がる
獲得数の目標を設定すると、達成のために対象を広げる判断が起きます。対象を広げると、条件が合わない層が入り、短期で離脱します。獲得数と継続期間を同時に見る形にします。
離脱を減らすほうが費用がかからない
新規1人の獲得には告知の費用と対応の工数が発生します。離脱を防ぐのは既存の対応の中で行えます。同じ在籍1人分を維持するなら、離脱防止のほうが費用は小さくなります。
| 計算の段階 | 使う数字 | 判断できること |
|---|---|---|
| 1人あたりの月次利益 | 月額−変動費 | 収益の基礎 |
| 平均の継続期間 | 離脱者の在籍期間の平均 | 得られる金額の計算 |
| 1人から得られる金額 | 月次利益×継続期間 | 獲得費用の上限 |
| 施策の評価 | 施策の費用÷獲得数 | 上限に収まるか |
| 離脱防止の価値 | 維持できた人数×得られる金額 | 施策との比較 |
教育分野に特有の法令上の制約
教育分野は、成果に関する表現と契約の扱いの両方に要件があります。施策を作る前に確認します。
成果に関する表現に裏付けが必要
「必ず成績が上がる」「就職に有利になる」といった表現は、裏付けと適用条件がなければ使えません。到達できる状態を前提条件つきで書く形にとどめます。合格率や就職率を出す場合は、母数の定義と対象期間を併記します。
特定継続的役務提供にあたる分野がある
学習塾、語学の教授、家庭教師、パソコン教室は、特定商取引法上の特定継続的役務提供として指定されています。契約金額と期間が一定を超える場合、契約前後の書面交付と中途解約についての要件が適用されます。
利用者の声を使うときの関係の明示
在籍者や修了者に依頼して掲載する声や、謝礼を渡して書いてもらった投稿は、事業者の表示であることが分かる必要があります。第三者の自発的な感想のように見せると、不当表示となる場合があります。
生徒や学生の情報を扱う前提
成績、答案、出席、進路といった情報を扱う分野です。取得の目的と利用の範囲を示し、保管と廃棄の方法も決めておきます。事例として掲載する場合は、掲載の同意を別に取ります。
| 確認項目 | 確認する場所 | 起きやすい不備 |
|---|---|---|
| 成果に関する表現 | 広告文・サイト・資料 | 裏付けのない断定 |
| 合格率・就職率 | 実績の記載箇所 | 母数の定義が書かれていない |
| 契約の書面 | 契約前と契約時の書式 | 契約時の書面しかない |
| 中途解約の記載 | 募集ページと契約書 | 記載が食い違っている |
| 利用者の声 | サイト・SNSの投稿 | 依頼や謝礼の事実が示されていない |
セグメント別に見るべき指標が違う
同じ教育分野でも、セグメントによって成果地点と指標が違います。他のセグメントの指標を持ち込むと判断を誤ります。
塾・教室は在籍数と継続期間
月謝の継続が収益なので、在籍数と平均の継続期間が中心の指標になります。入会数だけを見ていると、離脱で相殺されている状態に気づけません。入会数、離脱数、期末在籍数を並べます。
学校・大学は出願と入学の歩留まり
年に一度の入学が成果地点なので、資料請求から説明会、出願、入学までの歩留まりが指標になります。年間の周期が固定されているため、月次の改善より年間の設計が中心になります。
資格スクールは修了率と再受講率
受講の申込時点で売上が立ち、提供義務がその後続きます。修了率が低いと解約と返金が増え、翌期の集客材料も積み上がりません。申込数より修了率を先に見ます。
媒体掲載は経路別の在籍期間
ポータルへの掲載を使う場合、経路別に在籍期間を追跡します。入会数が出ていても在籍が短ければ費用を回収できません。経路を離脱時に紐づけて集計します。
| セグメント | 成果地点 | 中心の指標 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|---|
| 塾・教室 | 入会と継続 | 在籍数・平均継続期間 | 離脱で相殺されている |
| 学校・大学 | 出願と入学 | 段階別の歩留まり | 年間の周期が固定 |
| 資格スクール | 受講と修了 | 修了率・再受講率 | 申込だけを追う |
| 媒体掲載 | 経路からの入会 | 経路別の在籍期間 | 入会数だけで判断する |
他業種の手法をそのまま使えない場面
他業種で有効な手法のうち、教育分野では使えないものがあります。先に切り分けます。
大幅な割引は逆に働くことがある
教育は品質が見えにくい商品なので、大幅な値引きが品質への疑念につながることがあります。あわせて、在籍者との公平性の問題も生じます。割引を使う場合は、条件と期間を明示し、範囲を限定します。
期限を煽る手法は避ける
「今だけ」「残りわずか」といった表現で判断を急がせる手法は、家庭内での相談が必要な商品には合いません。急がせて入会させた場合、期待とのずれで早期に離脱します。常時実施している内容を期間限定と書くことも避けます。
成果を断定する訴求は使えない
他業種では効果を強く訴える手法が使われますが、教育分野では裏付けと適用条件が必要です。到達できる状態を前提条件つきで書く形にとどめます。
口コミの依頼に線がある
謝礼や割引と引き換えに口コミを書いてもらう手法は、事業者の関与が分からない表示を作ることになります。在籍者へ一律に案内する形にとどめ、書く内容は指定しません。
| 他業種の手法 | 教育分野での扱い | 理由 |
|---|---|---|
| 大幅な割引 | 範囲を限定して使う | 品質への疑念と公平性 |
| 期限を煽る訴求 | 避ける | 家庭内の相談が必要な商品 |
| 効果を断定する訴求 | 前提条件つきで書く | 裏付けが必要 |
| 謝礼付きの口コミ依頼 | 行わない | 関与が分からない表示になる |
| 対象を広げる拡大 | 継続期間とセットで判断 | 短期離脱が増える |
改善の順番を決める
獲得を増やす前に、受け皿と離脱防止を整えるほうが結果が早く出ます。順番を決めます。
受け皿を先に整える
対象、料金の総額、通える条件、申込方法が公開されていない状態で獲得の施策を打つと、流入が成果に変わりません。この四項目を整えるのが、どの施策より先に来る作業です。
次に離脱を減らす
離脱が多い状態で獲得を増やすと、対応工数と解約の処理が増えます。あわせて、離脱した層からの評判も広がります。離脱の時期と理由を把握し、先に手を打ちます。
最後に獲得を増やす
受け皿が整い、継続期間が把握できてから獲得の施策を足すと、費用対効果を判断できます。継続期間を知らない状態で始めると、獲得費用が妥当かを判断できません。
同時に複数を変えない
受け皿の改善と獲得の施策を同時に始めると、どちらの効果か分かりません。一つずつ変え、効果を確認してから次に進みます。
| 順番 | 整えるもの | この段階の目的 |
|---|---|---|
| 1 | 受け皿の四項目 | 流入を成果に変える |
| 2 | 離脱の時期と理由の把握 | 在籍を維持する |
| 3 | 継続期間の集計 | 獲得費用の上限を決める |
| 4 | 獲得の施策 | 在籍を増やす |
| 5 | 経路別の記録 | 予算配分の判断 |
比較検討している段階の層に絞る
教育分野で最も成果に近いのは、既に他社を検討している段階の層です。この層に届く手段を持ちます。
比較段階では必要性の説明が不要
「どこにするか」を調べている段階の人は、通う・受講する意思そのものは固まっています。残っているのは選択だけです。この段階に接点を作れれば、必要性を説明する工程を省いて判断に入ってもらえます。
競合の閲覧者を対象に指定する
ライバルマーケティング広告は、競合となる事業者のサイトを閲覧している人を対象に指定して広告を配信する手法です。教育分野は検討期間が長く複数社を回る人が多いため、比較中という状態を条件にできる点が噛み合います。
届けるのは条件と判断材料
比較段階では、どこも強みを並べています。差がつくのは、知りたいのに他社が書いていない条件です。向いていない条件まで書いてあると、書いてある内容の信頼度が上がります。
| 検討段階 | 調べていること | 置くべき情報 |
|---|---|---|
| 必要性の検討 | そもそも必要なのか | 困りごとへの対応 |
| 比較検討 | どこが自分に合うか | 条件と向いていない条件 |
| 最終判断 | 続けられるか・解約できるか | 負担と契約条件 |
教育マーケティングについてよくある質問
何を指標にすればよいですか?
セグメントによって違います。塾や教室は在籍数と平均の継続期間、学校や大学は資料請求から出願・入学までの段階別の歩留まり、資格スクールは修了率と再受講率が中心になります。他のセグメントの指標を持ち込むと判断を誤ります。共通して必要なのは、結果の指標が動くまでの間に見せる過程の指標です。提出率、質問の回数、できるようになった具体的な項目を記録してください。
獲得費用の上限はどう決めればよいですか?
月額から変動費を引いた額に平均の継続期間を掛けて、1人から得られる金額を出してください。この金額の何割までを獲得費用に使えるかを決めれば、施策ごとの妥当性を判断できます。平均の継続期間を持っていない事業者が多いですが、過去に離脱した人の在籍期間を集計すれば出せます。この数字がないまま獲得数の目標だけを置くと、対象を広げて短期離脱を増やす結果になります。
割引キャンペーンは有効ですか?
範囲を限定して使ってください。教育は品質が見えにくい商品なので、大幅な値引きが品質への疑念につながることがあります。あわせて、在籍者との公平性の問題も生じます。「今だけ」「残りわずか」といった期限を煽る手法は、家庭内での相談が必要な商品には合いません。急がせて入会させた場合、期待とのずれで早期に離脱します。割引を使う場合は、適用条件と期間を明示してください。
法令上どこに注意すべきですか?
成果に関する表現、料金の表示、契約の書面と解約の扱いの三点です。「必ず成績が上がる」といった表現は、裏付けと適用条件がなければ使えません。合格率や就職率を出す場合は母数の定義と対象期間を併記してください。学習塾、語学の教授、家庭教師、パソコン教室は特定商取引法上の特定継続的役務提供として指定されており、契約金額と期間が一定を超えると書面交付と中途解約の要件が適用されます。
何から改善すればよいですか?
受け皿を先に整えてください。対象、料金の総額、通える条件、申込方法が公開されていない状態で獲得の施策を打つと、流入が成果に変わりません。次に離脱を減らします。離脱が多い状態で獲得を増やすと、対応工数と解約の処理が増え、評判にも影響します。獲得の施策は、受け皿が整い継続期間が把握できてから足してください。あわせて、同時に複数を変えないでください。どちらの効果か分からなくなります。
















